建築禁止裁判、「進行協議」実施
裁判長らが現地を「実感」。

(9月4日)


 9月4日(月)ユニヴェルシオール建築差し止め訴訟を担当する東京地方裁判所の裁判長、裁判官、書記官及び研修生を含む9名が当地を「検証」に訪れました。今回の「検証」は、手続上、現地での「進行協議」というかたちでなされたものです。原告被告双方の代理人6名と原告被告それぞれ数名が付き添い、正門前では100名を超す住民がこれを見守りました。長谷工らは、この進行協議での裁判官のマンション敷地内への立ち入りを拒否しました。事前に長谷工担当者が非公式ながら「見られたくないものがたくさんあるから」と発言しており、販売目的で見学者を立ち入らせることはしているのに何故裁判官には見せられないのか、疑惑の残る検証となりました。以下は約1時間半にわたる進行協議で裁判官に同行した原告団長のレポートです。

(レポートの文章と写真の配列は必ずしも一致しません。)
 残暑厳しい中行われた今回の進行協議は、裁判開始当初から私たち地域住民が要望してきたものでした。地域の歴史、住民の地域への思い、街づくりの努力を踏みにじり、様々な生活被害をもたらすこの‘違法’マンションについては、昨年の4月より様々な証拠や証言を裁判所に提出して、訴えてきましたが、やはり現地を見てもらわないことには始まらないという思いがありました。
 裁判所のみなさんは、街のようすやマンションの影響を実感するためには歩いた方が良い、と判断して、駅前からマンションまで、坂道の続く学園の道路を徒歩で検証してくださいました。長谷工らが588世帯分もの送迎マイカーを通らせようとしている駅南口の一方通行、尾根道へと続くうぐいす坂、さらに、これも一方通行の花壇道路、朝夕は車が渋滞する無窮坂、狭い8丁目クランクを通りながら、住民たちが融通し合ってうまく車の行き来を実践していること、坂の多い街で皆さんが静かな街並みを楽しみながらよく歩くこと、588世帯ものマイカー増加はこの街の魅力に致命的な打撃を与えること、住民達は何度も署名や請願、デモを実施したこと、オオタカがこの街の空を舞っていることなどを伝えました。
 8丁目の高台に出るとマンションの巨大な姿が視界に飛び込んできました。「ああ、アレですね。」と、意識してかあまり話をしない裁判官の口からも、思わず言葉が漏れました。わたしたちは、実際の景色と地図とに交互に目を走らせながら、「あれはB棟です。」「この地点から眺めています。」などと、ぐにゃぐにゃとして、とらえどころのない醜い建物の集合体をみながら全員で確認しあいました。マンションの敷地は、町田都市計画マスタープランでは地域住民のアクセス可能な「大学研究所等」となっていること、町田市緑の基本計画では「緑の回廊」に位置付けられていることを説明し、40年来、緑に囲まれた裸地として生態系に素晴らしい環境を与えてきたこと、住民には良い住環境と解放感と夜の闇を保証してきたこと、しかし現在は地中深く多くの生物が死に絶えてしまい、スカイラインは壊され、緑は目に入らず、窓ガラスにぎらつく反射光や夜中の常夜灯に悩まされることになってしまったことを訴えました。オオタカの行動範囲が大きく変わってしまったことなどは、目で確認することのできる生態系への影響と言えるでしょう。いままでオオタカの行動圏内には6階以上の建物は無かったのですから。
 正門前で待つ100名を超す住民達の前を通り、このあたりで最も低い土地である正門前道路からそびえ立つマンションを見上げ、圧迫感、恐怖感も体感してもらいました。裁判所の皆さんには住民達の熱い思いと、‘違法’マンションの違和感を感じてもらえたと確信しています。
 その後、裁判官と代理人がマンション直下の二人の原告宅へ入り、いまや空ではなく建物ばかりとなってしまった窓からの風景を紹介してから、正門前道路で道幅を実測して6mに満たないことを示し、そこから五叉路へ出ることの危険性、渋滞発生の大きな可能性を理解してもらいました。
 五叉路から南台住宅への道のりは50pに満たない白線内を、車にひかれないように気を使いながら進みました。少し引っ込んだバス停で小休止して、再び前進しました。大人数でしたから、事故がないのが何よりでした。
 南台住宅街に入ればもう言葉による説明はほとんど無用でした。ただ私たちは、以前は玉川学園の街並みが見渡せ、その向こうには丹沢山塊が雄大な姿を横たえていたこと、住民たちは大山に沈む美しい夕日を眺めてきたこと、心地よいそよ風の恩恵を受けていたことなどを訴えました。そして今はそよ風は遮断され、グランドを行き来するタヌキの姿も見えなくなったと付け加えました。
 かしの木山の前では、一帯の緑地がいかにバランスの取れた生態系を保っているか、この周辺が住民達にとっていかに憩いの場となっているか、散歩道として広く推薦されるほど良い環境であり、大切な場所であることを説明し、「緑の回廊」が巨大なコンクリートの壁によって分断されてしまったことの重大性を伝えるべく言葉を尽くしました。今やトンネルのようになってしまったマンション裏の尾根道では、今でも私たちの脳裏に残る、玉川学園の街を走る小田急線の可愛らしい姿や、街を包む丹沢山塊越しの美しい夕日のことを語りました。
 良い環境が無惨にも壊されてしまったことについては、そこそこ理解してもらえたものと思っています。しかし、この街並みが持つ環境の良さは、たまたま私たち住民が、全くの偶然により運良く享受してきた、というものではないことをどれだけ伝えきれたか、短い検証ゆえ心もとなさも感じました。
 この地区は、少々不便でも車優先の街にせず、環境のために、うまく折り合いを付けて暮らしている街なのです。マンション直下の南台自治会には建築協定があり、土地利用の権利を少々奪われてまで、環境保護に努め、後に造成された9軒もその主旨に賛同し協定を結んでいます。日々の清掃から、街づくり計画に至るまでも住民のボランティアで成り立っています。オオタカが工事影響を受けて追いつめられながらも、かろうじて空を舞っているのは、このような住民たちの暮らしぶりがあってこそのものなのです。
 長谷工社員は今回も、「緑の回廊は尾根道から東側を言うのだろう。」「家を建てて緑を削っているのは旧住民だ。」「隣の一戸建てよりもマンションの方が離れている。」などと、本性をむき出しでへ理屈をくり返すばかり。これには反論する気にもなれませんでした。その視野の狭さにももう慣れてしまいましたが…。
 最後に裁判長から「他に言っておきたいことはありますか?」と聞かれて、「これはおもに入居する人たちへの被害ですが…」と前置きして、災害時の恐怖について訴えました。一棟と見せかけるために各棟に避難階段が備わっておらず、緊急時にエレベーター使用が想定されていないのを良いことに、エレベーターの収納人数は極端に少なく、緊急車両の到達には6mに満たない正門前道路だけが生命線となる…。つまり一棟としての最低限の緊急時対応しか備わっていないマンションなのです。本来ならば、588世帯全ての人の安全が第一義に考えられるべきことなのに、です。このマンションのような「一棟」の捉え方をすれば、何棟の建物でも人の安全を顧みず、不当につなげられることになってしまいます。大震災で破壊したという報告さえあるエキスパンションジョイント、それだけに命を繋ぐような危険極まりないマンションがすぐ傍にあるということは、近隣住民にとっても、不安ははかりしれません。このようなマンションを建築主たちは周辺住民と入居者に押しつけてもうすぐ去ってこうとしています。「それは入居者の問題ですから…」と裁判長から言われましたが、私たちにとっても他人事ではないのですから、訴えないわけにはいきませんでした。
 およそ1時間半におよんだ進行協議を終え、午後3時半すぎ、裁判所のみなさんは、汗だくになりながらミニバンに乗って帰って行かれました。忙しい中、遠くからの来訪に、原告団を代表して感謝申し上げたいと思います。

(写真はT氏とA氏提供)






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